[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「君に出逢えて本当に良かった。割り当てられた相手との婚姻だったらつまらない夫婦生活だっただろう。」
だからこそ,馬鹿な事をした自分を恥じて後悔の念に苛まれ続けるのだと色男の顔が弱々しくなった。
三津はそんなに思いつめないでと苦笑しつつ,高杉とおうのが頭を過ぎった。
「高杉さんも……本妻さんとの婚姻がお互い恋をしての物なら……今の現実は変わってたんでしょうか。」
「それは変わらないんじゃないかな。」 【改善脫髮】四招避開活髮療程陷阱,正確生髮! -
スパッと歯切れよく桂が答えたもんだから三津は目を丸くした。
桂はその顔可愛いねと笑いながら話を続けた。
「どんな形でもおうのさんとは出逢う運命だったかもしれない。
決まっている運命をそのまま辿っているのだとしたら,おうのさんとの出逢いもその道に含まれていて避けては通れなかったと思う。
だから君と九一が惹かれ合うのも運命の内だと私は考えた。」
「どんどん話が壮大になりますね。」
私達は難しく考え過ぎてるのかなと三津はくすくす笑った。
「じゃあ難しく考えるのは一旦止めて私達は私達の今を楽しもう。
人の事ばかり気にしないでたまには自分の幸せばかりを考えよう。
今の三津には何が幸せだい?」
たらふく甘味を食べる事?簪や可愛い小物を選ぶ事?私に叶えられる幸せはある?と桂は愛しい君になら何だってするよと口説き倒して三津を赤面させた。
「もう充分幸せですよ。だってこんなに愛を受け取ってます。形じゃなくても充分です。」
その返答に今度は桂が目を丸くして何度も目を瞬かせた。
「この押し付けがましい愛を……幸せだと言ってくれるのか……。」
「自分で押し付けがましいって言わない方がいいですよ?」
それだとただの嫌がらせに聞こえると三津は笑った。
「だって嫌がらせと思ってないんだよね?身勝手な愛の押し売りだと思ってないんだよね?」
「まさか嫌がらせのつもりやったんですか?」
それなら話は変わってくる。三津は眉手を寄せて疑いの眼差しを向けた。それには滅相もないと桂は慌てて否定した。
「私は常に本気だよ。でも私の一方通行だから嫌がらせと思われても仕方ないと思ってて……。」
『あぁ……。小五郎さんは自信がないんやな……。』
歯が浮く程の口説き文句を並べる彼はいつも余裕を醸し出していたのに,今やその面影はない。
その余裕と自信をへし折ったのは自分だったなと三津は改めて自覚した。
それでも多少自信を取り戻した桂を思い浮かべたら,ちょっと面倒くさい……。
そう思った時,長州の人って極端な人しかおらんの?と口走っていた。その一言に桂は何とも言えないと苦笑いを浮かべた。
「まぁ,国を動かそうとしてる方達なんで私の常識の範疇には収まらへんのは分かりますけどね。」
その破天荒なみんなの個性的な一面は好きですよとくすくす笑った。三津の穏やかな笑みに桂の表情と心が解れていった。
『何だかんだで……仲良くやってるならそれでいい。』
二人の笑い声を聞いて,入江は気取られないようにそっと部屋から離れた。こんな詮索らしくないなと自嘲しながら小さな溜息をついた。
夕餉の時刻。広間はいつものように賑わっているが高杉の居ないその場は賑やかなようで少し静かだった。
ただ,入江と桂が並んで食事する姿にはみんなの好奇な眼差しが向けられ,妙なざわめきがあった。
大体みんなが何を言いたいかを察した三津は何とでも言ってくれと半笑いで給仕をしていた。
「木戸さんも近くに三津との家を借りたらどうです?ここじゃ周りに気ぃ遣うでしょ。」
高杉のようにそっちに入り浸ればいいのにと入江に言われ,
「何故私が気を遣わねばならんのだろうな?」
この場において立場上一番偉い自分が何故周りを気にしなきゃならんのだと不服を申し立てた。
敬い崇め称えろとまでは言わない。言わないが,もう少し敬意を持てと周りを見渡して好奇の視線を蹴散らした。
三津は満面の笑みでしずと次郎におやすみなさいの挨拶をして一之助と店を出た。
「三津さん仕事の時と普段と笑顔使い分けちょるんやな。」
「え?そんな器用な事出来ませんよ。全部一緒です。」
「は?さっきフサちゃん思い出しとる顔全然違ったぞ。」 【改善脫髮】四招避開活髮療程陷阱,正確生髮! -
三津には言ってる意味が分からなかった。何がどう違うの?と一之助に詰め寄った。
「近い近い!距離感馬鹿か!」
少し離れろと三津の両肩を押して距離を取った。三津はすみませんと苦笑して五歩ほど後ろに下がってそれで笑顔の違いとは?と尋ねた。
「客相手には綺麗な愛想笑いで普段のは……ふっ間抜け面。」
意地悪く片口を上げてそう言った。
「えー……でも否定しません……間抜け面はよく言われるんで……。」
でも何だか不満だと三津は口を尖らせた。年頃の娘にしちゃ幼稚だなと一之助は更に笑った。
『笑った。』
満面の……とまではいかないが目を細め口角も上がっている。
じっと見られているのに気付いた一之助はすぐに仏頂面に戻った。そしてそのまま三津に距離を保たせて家まで送った。
「ただいま戻りましたー。」
玄関を開けるとお帰りなさい!とフサが飛び出してきて三津に抱きついた。
「お帰り三津さん。」
その後から出迎えに来てくれた文と,その隣りにもう一人色白で目のくりっとした可愛らしい子が立っている。
「紹介するわ,すみちゃん。」
「初めまして入江すみです。」
「入江ってまさか……。」
三津が目を見開いたのを見て文がにやりと笑った。
「そう,入江さんの妹。幼馴染なそ。」
「いつも兄がご迷惑をおかけしております……。」
「いえいえ!私の方がいつも九一さんに甘えっぱなしでっ!」
深々と頭を下げられてしまい三津はそれより深く頭を下げた。
「文ちゃんから話はある程度聞いちょります……。本当にど変態が申し訳ないです……。」
「ねぇ文さん何言ったの?」
顔を引き攣らせる三津に詳しくは中でと含みのある笑みを残して居間に戻った。居間では文とすみが並んで座り,文の向かいに三津,その隣りをフサが陣取った。
「本当にうちの愚兄の無礼を何と詫びれば……。」
「すみさんすみさんそれに関しては身に覚えがなくて……。」
「好かれた時点でもう終わりですよ。
自分から女子に興味を持たなかった兄が三津さんに纏わりついちょるって聞いた時には血の気が引くと言うか身の毛がよだつと言うか……。あんなど変態に好かれるやなんて……。」
妹にも変態を通り越し“ど変態”と認識されている入江とは。
三津はすらすら並べられる入江の悪口を聞き続けたが流石に酷い言われようなので一旦口を開いた。
「でも私九一さんには何もされてないし……。」
「御本尊握らされとるやん。」
文の一言にすみが嘆いてるのはそれか!と額に手を当てた。
「それに関しては私にも責任があって九一さんの気遣いがあった上での事で……。」
「いえ……興奮する点がおかしいアイツが悪いんです……。三津さんは謙虚で仕事も出来て愛嬌もある素敵な方なので責任持っていい縁談を……。」
「縁談!?いいです!いいです!それにしばらくは一人を楽しみたいです。」
もう苦しい恋なんてしたくない。身の丈にあった恋を出来るようになるまではまだ時間がかかると思う。それまでは働いて好きな事をして楽しく暮らしたいと思うのだ。
「本当に何で塾生の男共はろくでもないのしかおらんかね。三津さんうちの元旦那知っちょりますか?」
「あっえっと伊藤さんですよね?」
すみに問われて答えたが触れてもいい話題なのかと恐る恐る答えた。
「そう!結婚しても女遊び酷なる一方で浮気相手の芸妓が妊娠したのきっかけに離縁したそ。うちもこんな目に遭っとるし三津さんが結婚するなら絶対塾生やった奴とはさせられん。
文ちゃんどんどん腹立ってきたけ呑まん?」
川を眺めながら溜息を一つ。自分を慰める術を知らない。ここに来る事しか思い浮かばない。
周りに甘え過ぎだ。みんなが優し過ぎだ。
『明日から藩邸行くのやめよ……。』
サヤ達は優しくあぁ言ってくれたが,それはきっと自分が桂といい仲だからそう言うしかなかったんじゃないかと思う。
『家で大人しくしてたら小五郎さん怒らす事もないやろうし……。』
「……三津,俺は決めた。」 【改善脫髮】四招避開活髮療程陷阱,正確生髮! -
「え?何?」
繋いだ左手を辿って吉田の横顔を見上げた。
「俺は三津が振り向いてくれるのを待つつもりだったがやめる。
もう遠慮はしない。これ以上三津が泣いてるのを見たくない。」
真っ直ぐに前を見つめる吉田の横顔を三津は呆けた顔で見つめた。
「晋作でも三津を困らせる事があっても泣かすような真似はしない。俺だってそうだ。」
「泣くのは……私が泣き虫やからで……。」
「でも泣くのにはきっかけがあるだろ。そのきっかけを作ってんのは紛れもない桂さん。だから俺は桂さんを許さない。」
「違いますよ!そのきっかけを作ってるのは私で,だから悪いのは私なんです!」
三津はお願いだから桂の事を悪く言わないでと縋りたいた。
頑なに桂を庇う言葉に吉田は奥歯を噛みしめて悲痛な表情を浮かべた。
「……帰ろう。冷える。続きは家で話そう。」
吉田は半ば強引に三津の手を引いて家へ向かった。
「お茶淹れますね。」
家に戻って真っ先に台所へ行って湯を沸かした。
沸々と立ち始めた湯気を三津はぼーっと眺めていた。
「……寒い。」
背後から忍び寄った吉田は暖を取らせろと三津を抱きしめた。
「ひゃっ!もぉ……脅かさんといて下さい……。暖なら火鉢で……。」
振り向きざまに顔を上げれば唇に柔らかい感触。体はきつく締め付けられて逃してはもらえない。「んっ!んー!!」
三津はここで流されてはならんと必死に身を捩って抵抗した。
「……っそんなに嫌がらないでくれる?傷付くわ。」
唇を離した吉田はむっとして三津を見下ろした。
傷付くと言われ,うっ……と呻いてたじろぐ三津。
「吉田さんの事は嫌じゃないですけど……。」
「じゃあ好きになればいい。桂さんなんかやめて俺の方に来ればいい。もしかしたら俺の方が肌が合うかもしれない。一度試してみない?」
「……そんな事言う吉田さんは嫌いです。」
そんな軽い女になるつもりはない。私は好きな人としかしたくない。
「あぁ,悪かった。もっと情緒的に誘うべきだったね。今から俺と……。」
「違いますっ!そう言う事やなくてっ!もぉ……。」
堪らず顔を真っ赤にして言葉を遮った。
これじゃあ政変前の吉田に戻っただけじゃないか。また話が通じないと三津は膨れっ面で目を伏せた。
そんな三津を吉田は愛おしそうに見つめて喉を鳴らした。
「悪かったよ。三津の体も冷えてる。お茶飲んで温まろう。」
冷たい三津の頬を手のひらで包んだが吉田の手も指先まで冷え切っていた。
「冷たっ!火鉢にあたっとって下さい!すぐお茶淹れていきますから。」
吉田を居間に追いやって茶を用意した。
居間で二人で熱々のお茶を喉に通し,焼けるような熱さが落ちていくのを感じてようやく体温が蘇った。
「これ飲んだら戻るわ。」
湯呑みに口をつけながら目線は斜め下。畳を見つめながらそう言った。
「え?はい……分かりました。」
何かと理由を並べて居座るのかと思っていたから拍子抜け。だけど一人で反省しなければいけないからそれでいいんだと言い聞かせた。
ぼーっと一点を見つめながらお茶をすする三津に吉田は不安しか感じない。
「なぁ……お前本当に幸せか?」
「幸せですよ?小五郎さんの傍にいられて。」
それは心からそう思うと穏やかに笑った。
「あ!その目は疑ってますね?大丈夫ですよ。確かに最近は色々あったし,私の泣き虫が悪化してて心配かけてるんかもしらんけど大丈夫です。
今日もちゃんと謝って明日には持ち越さないようにしますから!」
だから大丈夫。その言葉を繰り返した。自分にもそう言い聞かせたかった。
を受け入れる度胸だ。此処を何処だと思っていやがる。この日ノ本で一番血生臭い京だ、泣く子も黙る壬生狼の住処だ。そのド真ん中でぼんやりされちゃあ迷惑なんだよ」
淡々と、けれども嫌悪すら込められた口調で土方は話す。
「おい、歳……」
それを諌めるように近藤が口を開けば、活髮 渋々といったように土方は前を向いた。
そうしているうちに切腹前の儀式が終わり、準備が整ったようである。
刀を清めた介錯人がゆるりと歩いてくる。桜花は目の前で何が起こるのかと正座をした腿の上に置いた手を震わせた。
すると、介錯人──沖田と一瞬目が合う。子ども達と無邪気に遊んでいた明るい青年は何処にも無く、一角の剣士の顔となっていた。
罪状が読み上げられ、土方により切腹が申し付けられる。
辺りはシン……と静まり、男は荒い息の後に覚悟を決めたように右から肌脱ぎをすると、目の前に置かれた短刀を手に取った。「う、ウオォォォ!!」
そしてそれを雄叫びと共に左の腹へ突き立てる。苦悶の表情を浮かべながら、一気に右の腹へ引き回した。
「……ッ」
その凄惨とも言える光景に桜花は目を見開き、口元を覆う。ガタガタと手が震え、必死に押さえていなければ今にも叫んでしまいそうだった。
八双に構えた沖田はグッと刀を握ると、振り下ろす。すると音も無く男の首は皮を一枚残して切り落とされた。
血飛沫が舞い、白い敷布や着物を汚していく。
そこへ検死役が駆け寄り、首を確認するなり土方の方へ向いて頷いた。
それを見た土方は立ち上がると、数歩前に出る。
「……見事な切腹だ。法度破りはいかんことだが、武士の最期はかくあるべきである。皆、よく目に焼き付けておくように」
そう言い放てば、それを合図と言わんばかりに囲んでいた隊士達は散り散りに去っていった。
土方は振り返ると、顔面蒼白になりつつ薄らと涙目になっている桜花を見下ろす。
「……どうだ。これが切腹だ」
「う、」
言葉を発そうとするものの、胃の奥からせり上げてくるものを感じ、桜花はよろよろと立ち上がり、前につんのめりながら走って前川邸から出て行った。
そこへ腕を頭の後ろに組んだ藤堂がやってくる。
「あーあ、可哀想に。涙目だったじゃん。子どもには刺激が強かったんだって。土方さん、あまり苛めてやんなよ」
桜花が走っていた方を見遣りながら、軽口を叩くように肩を竦めた。
「……苛めた訳じゃねえよ。これで油断は命取りになると分かったろう。ああ言う生温い生き方をしてきたような奴にゃ、命のやり取りを見せるのが一番良いんだ」
「歳は優しいんだか、怖いんだか分からねえなァ」
隣にいた近藤は豪快に口を開けて笑う。土方の肩を数回叩くと、そのまま去っていった。 一方で、八木邸の厠へ飛び込んだ桜花はそのまま胃の中の物をこれでもかと吐き戻した。
その脳裏には先程の光景が何度も浮かんでは消える。外へ出ると暫く壁に凭れかかり、座り込んだ。額には玉のような脂汗が滲み、頬を伝って首筋へ流れ込む。
見上げた先の空は青く、白い雲が揺蕩っていた。死んでしまえば、この穏やかで美しい景色は見られないのだ。
──私、何やっていたんだろう。
そこへ洗濯物を手にしたマサが通りかかった。明らかに顔色を悪くした桜花を見付けるなり、目を丸くして驚く。
「お、桜花はん!どないしたん。顔が青いし、えらい汗どっせ」
心配そうに眉を顰めるマサが桜花を覗き込んだ。その優しげな表情が視界に入るなり、目尻からは涙が零れる。唇を噛み、堪えようとするも幾筋も溢れた。
「……ごめん、なさ、私……私……」
「何があったん?ん?言うてみて。取り敢えず、家ン中行こ」
桜花はマサに背を支えられながら立ち上がると、促されるままに家の中へ入る。