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三保野が問うなり、濃姫は着物

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三保野が問うなり、濃姫は着物

三保野が問うなり、濃姫は着物の左袖の中に手を入れ、やがて奥で何かを掴んだらしいその手を、素早く袖から引き摺り出した。

 

「 !? ま、姫様。美濃の殿様の御刀、お渡しになられなかったのですか」

 

昨夜、信長に預けると心に決めて寝所に向かった主人が、未だに道三の短刀を所持している事実に三保野は驚いた。

 

「そうではない。お渡しする事はお渡し致した」

 

「では、お受け取りになられなかったのですか?」

 

「いや、受け取って下された」【改善脫髮】四招避開活髮療程陷阱,正確生髮! -

 

「はて。どういう事にございましょう?」

 

「今朝方、急にまたお返し下されたのじゃ。都の鞠が手に入った故、お市様にはそちらを贈ると申されてな。

この刀は、これまで通り私が持っていれば良いと仰せであった」

 

淡々とした無感動な言い方で濃姫は事の詳細を語った。

 

その奇妙な話に、三保野も首を傾げずにはいられなかった。

「おかしげな事にございますな。一度はお渡しになられようとして、殿から返され。

 

またその殿から所望された故、お渡しされようとしたら再び返されて

 

一度目はともかくとしても、此度は殿からのご希望によるものでしたのに、どういう事でしょう?」

 

「分からぬ。分からぬ故かように悩んでおるのではないか」

 

濃姫はやや不貞腐れたように言うと、夢想に耽るような表情をして虚空を見つめた。

 

 

本来ならば、大事としていた刀が手元に戻り喜ぶところだが、今の彼女にはそういった感情がまるでなかった。

 

 

殿を信じ、再び父上様の短刀を手放す決意をしたというのに

 

他の品が見つかった故いらぬとは、いくら何でもあんまりではないか

 

 

と、姫は憤りすら覚えていた。

 

仮にこれが自分をからかってやった事だとしたら、絶対に許せないと思った。

もしそうならば、短刀に込められた父の思いも、尾張へ嫁すにあたる自分の信念や決意をも信長は軽んじた事になる。

 

大切な物だからこそ彼に預けようと決心したというのに、それを利用して自分を謀ろうとするとは、何と心無い所業であろう。

 

怪訝な思いが次第に怒りへと変わり、濃姫は事の真相も分からぬ内から、推測によって独り苛立ちを募らせていた。

 

 

 

──ところが、そんな姫の苛立ちは、思いがけずもその日の内に解消する事となる。

 

 

 

それは、濃姫が気分転換のためにお菜津ら侍女たちを引き連れて、城内の典麗な庭を散策していた時の事。

 

濃姫が、庭の水辺に架かる太鼓橋をしずしずと歩いていると

 

──じゃが、それでは殿の気を損なうだけではないか!?

 

──そうであったとしても、これは渡せぬ。お断りするしかないのじゃ」

 

近くの松の木の陰で問答する、前田犬千代と池田勝三郎の姿を見かけた。

若き信長の小姓たちがこんな所で何をしているのか?

 

濃姫は訝しげに眉を寄せながら、そっと両人の側へと歩み寄った。

 

 

「お二方、かような所で何をなされておいでじゃ?」

 

「 !  ──これは、お濃の方様っ」

 

姫の声に勝三郎と犬千代はハッとなって振り返り、慌ててその場に跪(ひざまず)いた。

 

「勝三郎殿、それに犬千代殿も、二人してこそこそと何の密談です?」

 

「密談などと、とんでもない。我々はただ……

 

ただ何じゃ」

 

濃姫が訊くも、勝三郎はなかなか答えようとはしなかった。

 

それどころか口の端を固く結び、そのまま暗澹として項垂れてしまう。

 

よほど言い辛い話なのか?

 

濃姫が困惑気に勝三郎を見下ろしていると

 

「畏れながら勝三郎殿は、殿に難儀を強いられている由」

 

横の犬千代がはきはきとした口調で答えた。

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